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ルーカスの冬の冒険/エピローグ -祈りの余香-

あの冬が終わってから、

町はまた、静かに季節を受け入れるようになった。


春。

雪解け水が川を満たし、冷たい石に触れながら流れていく。

朝の空気には、まだ冬の名残があり、

湿った土と、どこか懐かしい教会の香りが混じっていた。


人々は言う。

「いつも通りの春だ」と。


けれど本当は、

“元に戻った”のではない。

あの冬を、胸の奥にしまったまま、生きているだけだった。


あの少年は、やがて青年になった。


背は伸び、声も変わり、

彼の名前を呼ぶ声も、少しずつ別の調子になっていった。

奇跡の話をする人は減り、

町の鐘の音も、日常の一部へと溶けていく。


それでも冬になると、

青年は無意識のうちに足を止めていた。


凍りかけた川のほとり。

あの光が昇っていった空を、もう一度なぞるように見上げる。


耳を澄ますと、

遠くから、歌とも祈りともつかない旋律が聞こえた気がした。

それは確かに音だったのに、

同時に、胸の内側で鳴っているだけのようでもあった。


奇跡は、もう起こらない。


天使の声が響くことも、

町が一斉に息を呑むこともない。


けれど青年は知っていた。

あの旋律が、完全に消えることはないと。


誰にも気づかれない朝、

空を横切る小さな影がある。

風を切る羽音。

まっすぐで、迷いのない飛び方。


それを見るたび、

胸の奥が、きゅっと締めつけられる。


――ああ、まだ続いている。


信じることを選んだ日。

怖れを抱えたまま、前へ進んだあの瞬間。

すべては、今もどこかで息をしている。


青年は、もう振り返らない。


代わりに、静かに歩き出す。

胸の奥で、祈りのような旋律を抱いたまま。


物語は、ここで終わる。

けれど、あの歌が消えることはない。


冬が来るたび、

空を渡る影を見るたび、

それは、そっと思い出される。


――奇跡は、起きた。

確かに、ここに。

 
 
 

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